2022年08月15日
書経 4
(湯王曰、……)
不食言
(湯王の言葉)
破約しない、嘘は言わない、ということを肝に銘じてい
た、というのだ。
<管 見>
※これは、2022-06-06に「大学・傳二章」23で記した、
「荀日新、日日新、叉日新…」盤の器に彫り付けて、毎日の
自誡(自戒)の句とした、というあの湯王である。
二か月ほど前に掲載したので、記憶に新しいと思われる。
「酒池肉林」で知られる夏の桀王は、殷の紂王とともに
と並び称され、古来、国を亡ぼした非道な暴君として知られてき
た。
この夏の桀王の虐政に反抗して、兵を挙げ、桀王の大軍を
鳴条山に破り、桀王に代わって天子の位についたのが、
殷の湯王である。
(勿論、名補佐役の伊尹や賢臣仲虺(次回に記す)などの
人材に恵まれたことは、言うまでも無い)
湯王は、挙兵にあたり、領地の亳の群衆を前にして、
出陣の誓約を次のように宣布した。
「来たれ、爾もろもろよ、ことごとくわが言を聞け、
われは敢えて乱をあぐるにあらず、夏の罪多くして、
天命これを討たしむなり」、と。
つまり、夏の桀王の悪虐を天命に従って討つのだと述べた
のである。
この湯王の誓詞は、いま「書経」の「湯誓篇」として残
されているが、さらに桀王と戦って大勝し、亳に凱旋した
時、湯王は、再び諸侯に対し、「夏王、徳を滅ぼし、暴政を逞し
くし、なんじら万邦の 百姓に対し虐政を加えたり。
爾ら万邦の百姓、その凶害を蒙りて、荼毒の苦しみに堪
ええず、無辜の苦しみを上下の神祇に告ぐ。
天道は常に善に福し、淫に禍す。
天は災を夏に降し、 もってその罪を彰かにせり」。
(書経、湯誥篇)
と、言葉激しく桀の罪をならし、天命が夏を去り、殷に下
ったことの正当性を証明しようとした。
桀王の悪虐を非難した言葉は、このほか、古典に数多く見
られるが、同じ「書経」の「仲虺之誥」は次回に譲ることとす
る。
それにしても、このような優れた湯王による殷王朝の時代
も末期(紂王)には乱れに乱れて滅亡する。
これは、禅譲を旨とした三皇五帝は別として、世襲が当た
り前となった前代の夏王朝の末代(桀王)をはじめ後世に至る
まで、かくの如くの次第である。
いまさら述べるまでも無く、現在の各界においても然り
≠ニ言わざるを得ない状況である。
前轍は、時代・国・政界・財界・中小弱小零細の各企業・
商工業・自営業などの枠を超えては勿論のこと、各家庭内に
おいても良俗や長幼の序≠ェ無秩序の様相を呈している。
〈用語注〉:
殷の湯王:夏の桀王(酒池肉林…などの)は暴政を敷き、
その治世はひどく乱れた。
殷の湯王(契から数えて13代目、天乙とも
いう)は天命を受けて悪政を正すとして、
伊尹(名宰相・湯王の補佐役)の助けを借りて蜂起、
夏軍を撃破し、夏を滅亡させた。
食言:一旦、言ったことを呑み込んで、何食わぬ顔をする
こと。
亳:殷の都があったところ。
荼毒:苦しめること・虐げること。苦しむこと・苦痛。
無辜:罪がないこと。また、その者。
神祇:天の神と地の神。
天道:天地の道理(筋道・正しい論理)。